2008年9月 7日 (日)

空の中/有川浩 ~腑に落ちる、よくできた小説~

爽やかなタイトル。
中身も爽やかな小説と思いきや、
いい意味で裏切られる小説。

中身はSF・ミステリー・冒険・そして恋愛と盛りだくさん。

導入部はミステリー?
不思議な動物とともに現れるSFチックな展開。
恋愛要素も大人編・少年少女編と入ります。
少年の成長、も大切な要素ね。

やがて物語要素は政府や政治、先端研究まで広がると、
ラストで急速に家族愛へ絞り込んでいく。

これだけ要素が混在すると収束するのは難しそうだが、
うまく腑に落ちて漏れのないように描かれています。

登場人物もパターンにはまっていはいるものの魅力的です。
欲を言えば岬美由紀にそっくりなパイロットの彼女の活躍シーンが
もう少しあればよかったかも。

でもまぁ満足できる小説でした。

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空の中

2008年6月29日 (日)

重力ピエロ/伊坂幸太郎 ~清々しさの発露~

お洒落で片付けたくなくはないよね。

相変わらず生々しくない伊坂作品の登場人物も、悩みや苦しみは当然持っている。

それが描かれていないのは作者が描いていないだけ。泉水も春も父親も母親も、みな苦しみを抱えているのは間違いない。それはあまりにも当然だから作者は描いていないだけ。

「当たり前でしょ?」

この作品とコインロッカー、そして以降につながる作者の作品経緯、彼が何かをつかんだ、あるいは受け手が受け入れることができる鷹揚さが作品に生まれだした、そんなエポックメーキングとも言える作品。

正直ミステリーの謎解きは強引だし人の死が小説の香辛料として安易に使われている気もするが、謎解き以外の完成度と奥行きはかなり高まってきている感じ。

もう一歩、もう一歩。

相変わらず期待したくなる作家である。

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重力ピエロ

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2007年8月11日 (土)

黒と茶の幻想/恩田陸~ノスタルジックミステリー~

かつての学生時代の友人。いまも友人。4人で出かける旅。彼らの過去。残されていた謎。彼らに何があったか。何が起きたのか。山中の旅の中、明らかにされていく謎。明らかにされていく真実。

複雑な関係。かつての恋人たち。掘り下げられる内面。突き詰められていく内面。真実はどこにあるのか。やがてなされる告白。彼らはどう真実に向き合っていくのか。彼らはこれからどこに向かうのか。

彼らはどこにも向かわない。彼らは戻る。それが旅であり、人生である。

彼らは互いを知っている。多感な時期を過ごした仲間として知っている。だが知らずにすごしてきたこと、それが謎となり彼らの人生に影を落とす。

影は晴れるのか。旅の中、語られる真実。旅を振り返るとき。彼らの過去を振り返るとき。何が彼らに残ったか。そしてやがて、前を向いて歩いていく。太古の杉。伝説の桜。美しき謎の記憶とともに、確かな再会を約束して。

2007年1月 8日 (月)

クラインの壺/岡嶋二人 ~明確な構成とストーリー~

面白い。久々に戯言や解説抜きで没頭できる小説を読んだ。

現実と空想。リアルと虚構。パラレルワールド。ミステリーのようなSF。SFのようなミステリー。

主人公は新進ゲーム作家。出来上がった作品をとあるゲーム会社が買い取るところから話ははじまる。現れるヴァーチャルリアリティの世界。主人公は美少女とともにヴァーチャルの世界に没頭する。そして消えた美少女。突然消えた彼女を探して、主人公はヴァーチャルの謎に迫っていく。やがて訪れるリアルとヴァーチャルの境界線の崩壊。崩壊した垣根を前に主人公は最後の賭けに出る。リアルな自分を呼び戻すために。

この作家、「99%の誘拐」もそうだが、使われるモチーフがPCやゲームなど一見時代性が高いもののため小説が古びそうなところだが、今読んでも全く古さを感じない。技術に対する深い視座と本質を描く能力、またストーリーの中に組み込むセンスのよさで現在に対するクリティカルな力を保持している。時がたてばたつほど、評価が上がる作品になりうる。

2006年12月17日 (日)

終末のフール/伊坂幸太郎 ~揺さぶられる世界~

「終末」という言葉、日常生活ではあまり用いられない。小説の中でもSFなど、展開の大きな世界のお話で語られることが多い。しかし「終末」をむかえる前には必ず人がいる、人の日常がある。隕石衝突というSF的な設定の中で語られる、ふつうの人々の日常のお話である。

十数年前に核戦争後の世界をモチーフにした演劇が流行ったことがあった。そこで表現されていたのか限りない喪失感、語られたのは失った後にわきおこるささやかな希望。

地球に衝突する隕石を回避するために宇宙船にて飛び立つヒーローの映画もあった。表現されたのは人が人を救う勇気。世界愛。

この小説の登場人物たちはあくまでも失われていく世界を見ながら、世界に寄り添い、日々を過ごす。普通の日常が続いていく。何かが起きるか、いや何も起きない。朝起きる。食事をする。人と話す。走る。トレーニングをする。遊ぶ。サッカーをする。妊娠して悩んだりする。家族がいる人もあり、失った人もいる。子は親に反抗し、夫は失った妻を想い行動し、ひとりの人は仲間を求める。

「明日世界が終わるとしたら、あなたの生き方は変わるのですか?」

変わりたいのがほとんどの人にとって当たり前、だから人は争う、叫ぶ、逃げる、襲う。そんな中で数年も生き抜いた場合に何を人は思うのか。

実は人は変わらない。変わるほど強くはなれない。身近な人を大切に思い、自分をなぐさめ、時に気晴らししながら、人は生きていく。当たり前の結論だがそこにたどりつく。せつなさと悲しさとあたたかさが同居するラストシーンが、そう語りかけてくる。

2006年11月24日 (金)

世界の終わり、あるいは始まり/歌野晶午 ~仕掛けとストーリーのバランス~

古くはアガサ・クリスティ。最近では貫井得郎。仕掛けと構成で読ませる小説。

仕掛けという手法には大きな魅力があり、ミステリーの場合その一点のみで成立する小説も多い。しかし仕掛けがもたらすのは最後の驚愕のみ。そこに至るまでに求められるのはストーリー・文体などあわせた筆力。流れがつたなければ仕掛けに対する要求も高くなり、レベルが低ければ読後感は非常に悪くなる。

この小説では仕掛けは途中で明らかになる。したがって構成的には先が読める。最後でより大きな仕掛けにいたるのか、あるいはストーリーとしてオチをつけるのか。テーマとしても社会派的な要素が見え隠れするようになり、さらに大きなオチが必要となる。読みすすむにつれて大きくなる期待。

結果の判断は読まれた方により異なるか。私の判断は否。扱う範囲をやりたい部分で拡げすぎたか。収拾がつかない中で結果があまりにもまっとうなのはマイナス材料。無理に集約する必要はない。拡げに拡げて逆に収拾がつかなくなる。そんな方法もあったのではないか。

2006年9月13日 (水)

ねじの回転/恩田陸 ~五感で語りかける小説家~

作家の個性とは何か。ストーリーか、人物の描写か。

どんなストーリーでも、どんな描写でも立ち現れる作家の個性。それが現在とシンクロし、僕らの心を討つ。討たれた僕らはしばし現れる感情に心を酔わせ、やがて心を静めていく。

五感。視る、聴く、触れる、味わう、嗅ぐ。小説は(文章は)視る上に言語という二次的な解釈を必要とする本来は間接的な芸術。しかしすぐれた小説(文章)ではぼくらはその「空気」に触れ、感じることができる。すぐれた小説家とはどんな小説でもそのすぐれた「空気」を作家の個性として創り出せる人のことをいう。

恩田陸の小説には彼女の「空気」が満ちている。手法はさまざまであり、ミステリーから青春小説、今回はSFと、手をかえ品をかえ僕たちに語りかける。品はかわっても彼女の空気は変わらない。

正直この小説では人物描写には不足あり、2・26という歴史を扱うがゆえにやや構成に臆病な点が散見する。ストーリーとSF的描写もやや無理があるか。しかし彼女の創り出す空気には狂いはない。その空気があの時代と僕らの今と、未来の想像をひとつにつなげている。少しでも希望を見出したい。人間に希望を見出したい。そう感じていたいラスト。最後まで読んでよかったと思わせる。

2006年6月 5日 (月)

ニート/絲山秋子 ~純粋で純愛な~

絲山秋子さんについては書きたかった。確かな文体、流れる寂寥感。

この小説は彼女の中で特に評価の高いものではなかった。だけれども私は彼女のこの小説を選びたい。題名は今話題のニートだが、この小説は純愛小説なのではないか。しかしよくかんがえると彼女の小説は多かれ(袋小路の男)少なかれ(イッツオンリートーク)純愛小説なのではないか。

純愛なのに流れる寂寥感。純愛だからこそ描かれる性愛。彼女は何を見ているのか。受け止め方の許容度を増やすと、彼女の小説はぐんと面白くなる。

2006年4月28日 (金)

会社はこれからどうなるのか/岩井克人 ~社会科学と想いと哲学~

経済を語ること、は事後の事実の追認作業ではないか。
そう思わせるアナリストの経済書・ノウハウ本はあまりにも多い。
わかりにくいことをわかりにくく書いているとしか思えない書籍の集積。

わかりにくいのは説明に無理があるから。
ということがこの本を読んでいると非常によくわかる。

会社とは何だったのか。
会社とは何か。
会社はこれからどうなるのか。

数字でなく概念で物事を捉えることの当たり前のわかりやすさ。
そして概念が本質を捉えている(多分)から来る事の説得力。

社会、経済の時代的変遷から考察する著者の資本主義の分析は、数字でなく、
データでもない、おそらく、哲学。
「ポスト産業社会の資本主義は【差異】により成り立つ。」

惜しむらくはやはり社会科学は未来を語ることに適していないのか。
これからあるべき会社の姿の提言には一抹の弱さ、希望的観測が入り混じる。
(少し希望が勝ちすぎか。)
でもこれから、今までとは違う資本主義のあり方を、あるべき姿の
資本主義のあり方を、提言したい著者の想いは充分に伝わる。
わたしたちは、その想いを受け取ることができるか。

身近な会社について、ゆっくりと考えざるを得ない秀作である。

2006年4月15日 (土)

砂漠/伊坂幸太郎 ~今までいなかった人~

作家の評価

面白い作家はたくさんいる。
うまい作家もたくさんいる。
読み手のことを考えて書く作家もたくさんいる。
上の全てを兼ね備えた作家も多少はいる。

でも上の全てを兼ね備えながら、

今までにいなかった、

と思わせる作家はほとんどいない。

伊坂幸太郎はそんな作家。
シンプルな思いを仕掛けと文体のみで素敵に説得力を持たせながら
「読ませることのできる」人はそんなにいない。
しかもその文体が「新しい」人。

著者の中では初めての青春小説、と呼ばれているらしいが
著者の中ではあまりジャンル分けは意味がない。
単に小説を、自分が読みたい小説を書いている。

「重力ピエロ」も「アヒルと鴨のコインロッカー」も
「死神の精度」もこの「砂漠」も。多分そう。

最後に少し作品のこと。
麻雀と恋とサスペンスと暴力と悲しみと怒りと、
友情と仕掛けと超能力と。大学生の生活と世の中に対する
怒りと、やはり最後は青春を。味わいたい人に。是非お勧め。

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