2007年5月 6日 (日)

悪党たちは千里を走る/貫井徳郎~肩の凝らない近作~

貫井氏には珍しく、気軽に読めるユーモア小説となっている。一見冴えないが実は実行力のある主人公、頭脳明晰な美女、すこし間の抜けた相棒、おませで機転に富んだ美少年。彼らが繰り広げる誘拐劇が意外な方向へ転じていく。

この手の小説は人物の魅力づけと設定のプロットが大事。がんばってはいるが前者についてはやはり伊坂幸太郎氏や奥田英朗氏に一日の長があるか。逆に後者については萩原浩氏と並んで貫井氏の真骨頂。伏線の貼り方とどんでん返しでうまい具合に読ませていく。

気軽に貫井ワールドに触れたい方にはオススメか。いきなり空白の叫びや愚行録はヘビーすぎる。あるいは両書の間に読むのが肩の力が抜けてもっともオススメかもしれない。

2007年3月 5日 (月)

空白の叫び/貫井徳郎~冗長なる濃厚~

読み終えるとかなりの満腹感。もうおなか一杯。もう食べれません。質も量もたっぷりと。空腹でない方、繊細な味覚の持ち主の方にはあまりお薦めできない。おそらく途中下車をなさることになるでしょう。

主人公は三人。少年たち。彼らが凶悪犯罪を犯すまで、少年院での収容生活、その後の彼らの足取りを軸に物語がすすむ。第一の成功点は彼らの人物造形。徹底したフィクショナリズムにより小説的な存在となった少年たち。そして第二に彼らを犯罪に追い込む大人たちと社会の通念。あくまでも無意識に少年たちの心の襞に未来への膿を溜めていく。第三は作者のお手の物。道中のプロットに伏線を振りかけ、最後にばらす事でのカタルシス。

第三の成功点にこれまでの作品では特化してきた作者が、故意にか偶然か、別視点での展開に拡がりを持たせてきているように感じる。この読後感はしいていえば桐野夏生に似ているか。まだまだ彼女に及びはしないが、男の立場からは男性の視点での桐野的なる世界があれば覗いてみたいのもまた確か。次回作を注意して見守りたい。

2006年10月23日 (月)

今日も友だちがやってきた/野田知佑 ~鮮烈な人~

鮮烈なる文章。このひとの文章には季節が、太陽が、草木が、生き物があふれている。瑞々しくあふれている。人が、子供が、老人が、父親も、母親も、日本人がロシア人が、犬が魚が小鳥が、光と空の下で輝いている。

本書はこのひとの書の中で特に秀でているわけではない。長年書き続けているBEPALのエッセイのまとめである。すでに20年以上は続いているこのエッセイにて、彼の書く文章は変わらない。当初からずっと変わらないテーマはおそらく一つ。

「自由にいきること」

簡単ではないこのテーマに対して彼は語り続ける。ゆっくりと、焦らずに、しかし時には声高に。

「人間は何をして生きてもいいんだ。」

自由の美しさ、困難さを知っているからこそ、自らが大切にする川の自由を、自然の自由を奪おうとする「国」に対し、真っ向から強く闘い続ける。決して諦めることなく立ち向かう。その闘いの中に浮かび上がるのは、自らを信じ長いものにはまかれずに、立ち続けてきた人間の尊厳。

そしてその一方で気負いなく遊ぶこどもたちに向けられる限りなくやさしい視線。自由を模索する若者たちに向けられる熱く心強きまなざし。ひとりの男に共存するおおきな想いが文章の底流にながれている。

とはいえ本書のほとんどは川遊びや釣り遊びのなかでの交流録。気軽に手軽に読めてしまう。彼のおかげで自分も何かした(遊んだ)気分になってしまう。読み進むなかで水や自由についてもう少しだけ知りたくなったら、彼の「日本の川を旅する」や「北極海へ」を読了いただきたい。人生の地平線がぐい、と拡がること間違いない。

2006年10月19日 (木)

愚行録/貫井 徳郎 ~最悪だけど悪くない~

最悪の読後感。救いがないとはこのことか。

主人公はいない。あえて言えば亡くなった夫婦がそうなのか。二人にまつわる知人・友人から語られる彼らのエピソード。どこにでもありそうでしかし少し違和感の残る二人のエピソード。嫉妬・ねたみ・憧れ。誰もが持つ人としての気持ちがほんの少し他の人より強い二人。でも殺されるほどじゃないよね。それが知人・友人の主な意見。

エピソードの間に挿入される「兄」と「妹」の会話。この二人の方がはるかにイカレテイル。だから興味は移る。名乗らない兄妹は誰なのか。殺した者?殺された者?

しかしひねりのきいた構成。読書時間が短く感じることこの上ない。謎の解かれ方としてよくできている。だからミステリーとしては大合格。欲を言えばもう少し、人を掘り下げてみてほしかった。夫の嫉妬と妻のねたみ、妹の異常と兄の不気味。掘り下げて見えてくるものはおそらくある。そこまで行っても読ませることはできるはず。ただその時ミステリーとしての純度は下がるかもしれない。この作者、意外にそれを嫌うかもしれない。

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