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2007年6月 5日 (火)

返事はいらない/宮部みゆき~目立たないけど大切な作品~

時代小説、推理小説、社会派。いくつもの側面を持つ作者の、初期の短編集である。近年の彼女の小説のボリューム(文庫で1冊におさまることはまずない)からすると、文庫で280ページ程度のこの小品は、あっという間に読み終えてしまえそうな薄さに思える。しかしながら読み進むうちに、短いながらも品格と奥行きと兼ね備えた宮部ワールドに吸い込まれ、じっくりとじっくりと読みたく、最後には読み終えたくなくなってしまう小説である。

舞台は東京。さまざまな理由で、さまざまな想いでそこに暮らす人々。犯罪の影も感じられない人たちをまきこんで、あるいはそんな人たちの手で、事件は起こっていく。それは発端は小さな想いであったはず。小さな嫉妬。小さな恨み。小さな悲しみ。小さな苦しみ。そんな想いが東京という都会の中で少しずつ発酵し、やがて小さな事件へと展開していく。

作者の特徴の一つ。登場人物を見つめる視線はあくまでもやさしい。悲しい事件を描きながら温かな想いを感じられるのはそのせいか。彼女はその視線の先に何を見つけようとしていたのか。「火車」へ「模倣犯」へ「理由」へつながる系譜。今となればこれが彼女の原点の一つと言えるのではないか。

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返事はいらない

2007年6月 4日 (月)

遠い太鼓/村上春樹~異国で考えること~

日本に住んでいると、当たり前のようにわたしたちは考える。

これはこうあるべきだ、これは普通こうなる、これはこんなときのためにこうしておこう。

そんな日常に疲れたときに人は旅に出る。海外に出たとき、普通のことが普通でないことに当たり前のように気づく。だがそれは気づくだけ。やがてもどるべき自分の国では普通のことが待っているから。

作者は旅に出る。長い旅に出る。正確に言うとそれは「旅」と「日常」の中間のような道程である。そこで生活はする。アパートに住み、料理もつくり、友人をつくる。しかし税金は払わず、コミュニティには属さず、しっかりとした自分の世界を保ちながら、仕事である小説の執筆を進めていく。

作者が発見するもの。どうでもいいような些細な日常の出来事。ギリシアで、イタリアで、イギリスで、旅のような日常の中でつむぎ出されていくエピソードたち。作者はその日々を軽やかにつづっていく。

どこにでも人はいる。生活がある。核とした文化的背景の前にしっかりと立ち上がる人物。肩の凝らない文章が瑞々しく苦々しく香ばしい日々の記録を伝えてくれる。「ノルウエィの森」「ダンス・ダンス・ダンス」の頃、彼が何を想い何に憂いていたのか、その息遣いが伝わってくる記録である。

遠い太鼓

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