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2006年9月23日 (土)

蛇を踏む/川上弘美 ~癖になる描写~

蛇を踏む:あらすじ「女は藪で蛇を踏んだ。蛇は女になり食事を作って待つ。」

消える:あらすじ「消える家族、縮む私。」

惜夜記:あらすじは書けません。

暗喩、類型、象徴。小説の解釈はおそらく無数にある。彼女の小説はその多くを受け入れるだろう。しかし彼女の小説はそのいずれからも逃れるだろう。だっていきなり言葉が変わる。主語と述語の組み合わせは通常見かけない。「人」普通は「縮む」ことはない。「少女」に「きのこ」は「生える」はずはない。「ニホンザル」は「謝りなさい」と怒らない。もちろんSFでもありません。

しかし言葉は生きる。読み手のなかに最初は違和感とともに引っかかっていく。やがとその引っかかりが増えていき、そのままこの世界にバイバイか。あるいは深く入っていくか。この小説が引き起こす反応は大きくはこの2つ。

僕はどうか。僕は夢を見たい。惜夜記のような夢を見たい。

彼女の中からどう言葉は生まれるのか。言葉は実態を描写するもののはず。しかし彼女の実態は溶けていき、消えていく。言葉だけが残る。残った言葉が動きはじめる。最初はだからついていけない。実態を追うと混乱する。あるときから実態を追うことをやめ、言葉だけを追ってみる。するとあら不思議。この描写は癖になる。

2006年9月13日 (水)

ねじの回転/恩田陸 ~五感で語りかける小説家~

作家の個性とは何か。ストーリーか、人物の描写か。

どんなストーリーでも、どんな描写でも立ち現れる作家の個性。それが現在とシンクロし、僕らの心を討つ。討たれた僕らはしばし現れる感情に心を酔わせ、やがて心を静めていく。

五感。視る、聴く、触れる、味わう、嗅ぐ。小説は(文章は)視る上に言語という二次的な解釈を必要とする本来は間接的な芸術。しかしすぐれた小説(文章)ではぼくらはその「空気」に触れ、感じることができる。すぐれた小説家とはどんな小説でもそのすぐれた「空気」を作家の個性として創り出せる人のことをいう。

恩田陸の小説には彼女の「空気」が満ちている。手法はさまざまであり、ミステリーから青春小説、今回はSFと、手をかえ品をかえ僕たちに語りかける。品はかわっても彼女の空気は変わらない。

正直この小説では人物描写には不足あり、2・26という歴史を扱うがゆえにやや構成に臆病な点が散見する。ストーリーとSF的描写もやや無理があるか。しかし彼女の創り出す空気には狂いはない。その空気があの時代と僕らの今と、未来の想像をひとつにつなげている。少しでも希望を見出したい。人間に希望を見出したい。そう感じていたいラスト。最後まで読んでよかったと思わせる。

2006年9月12日 (火)

小説家/小林紀晴 ~てらいなく~

文章を書くということ。小説を書くということ。

その二つには大きな隔たりがあり、その一線を越えることができた人、できない人。この本に登場する小説家たちは前者のはず。作者は何のてらいも躊躇いもなく、無垢のまま、自分の言葉で語りかける。そのてらいのなさが微笑ましくありうらまやしく頼もしくもあり、小説家たちは言葉に反応していく。

ところが小説家により作者の言葉を受け止めるもの、受け止めきれずにいるもの、見事に分かれるのはなぜか。既に大家と呼ばれてもおかしくない、山田詠美・椎名誠・村上龍は作者のてらいのなさを素直に受け止め、率直な言葉を返していく。一部の新進の作家はてらいのなさに戸惑うのか、自らにしか通用しない言葉を繰りかえし、僕たちのもとには何も届かない。

作者は写真家でもあるがゆえ、小説家の心象を切り取るすべには(おそらく無意識のうちに)慣れている。そして読者を恐れない。作者の想いはあくまでも小説家たちにある。作者の向こう側に読者を見ることのできる小説家たちだけも読者を恐れず、作者をそして僕たち読者を切り取ることができる。

僕らは切り取られる。そんな言葉を待ち望んでいる。写真の対象物となり、自分をあからさまにしてくれるような言葉を。そんな言葉をつむぎだせるのは誰か、なぜか。作者の無垢とてらいのなさが、写真がそこに在るように語りかけてくる。

2006年9月 9日 (土)

MOMENT/本多孝好 ~設定の違和感~

僕たちが生きている世界あるいは世界観との微妙なずれ、そのずれぐあいがうまく読者の心の窪みにはまると、この作家の魅力を感じるのかもしれない。その意味からは短編が彼のお薦め。長編ではまらないと長時間つらくなる。

この短編集なら3話目が僕の窪みとはまる。人により2話目、1話目、4話目となろう。だから僕は1話目や2話目の主人公には共感しないし、4話目の展開にはまったくリアリティを感じない。

設定の違和感、ずれぐあいを多くの人にあわせられるか、しかしあわせすぎたらずれではない、ずれがなければ本当に凡庸な単に文体がおしゃれなライターとなる。危うい。思うに「真夜中の五分前」は少し女性にあわせすぎたか。すぎ、ではなく狙いとおりか。ならば僕が読んだのが間違いか。

2006年9月 4日 (月)

真夜中の五分前/本多孝好 ~どこまで本気になればよいか~

うまい、読ませる。しかし、ぐうぅぅぅ。

この辺りは共感する人はいないか。村上春樹の表面をすくいとって恋愛小説にしたてあげていないか。

そんな意図はないとは思う。前半はたしかに読ませる。だが軽い。主人公があまりにも軽い。少し夢物語的なストーリー展開は誰向けか。アキバ系少年か、アート系女子学生か。

ひどいことを書きすぎか。悪くはない。文章のセンスよく、最後まで読ませる。ずっとそう書いているではないか。

しかし前半だけで終わっていればこの小説は本当に悪くない形で終わっていた。双子だからといってそんなに難しく人生を過ごす必要はない。女性の主人公の描写が男好みに書けているだけに、普通にハッピーエンドに終わらせておけばよい。それがみんなの幸せ。これが感想。

環境デザイン講義/仙田 満 ~いつか発見するもの~

まだ未了である。読む側が。

作者の数十年間の研究と講義の集大成である。簡単に読了できるわけはない。おそらく読みきれない部分はしばらく残る。しばらくで済むか。

とり急ぎ読み込んだ箇所だけでも伝えたい。筆者は特にこどものあそび環境に対する第一人者である。こどもが遊ぶには何もいらない、こどもは遊びの天才と僕たちは騙されていないか。

そうではない、と筆者は語る。特に自然を対象とした採集の遊びは「伝承」が必要だと。それが失われた現在、都会よりも田舎のこどもたちが遊びに恵まれていないと。

だから僕たちは何をする。筆者は建築家である。だから建物をつくる。何だ、単に自己の正当化か、と思うなかれ。それで飽き足らぬ彼は保育、教育、医療の方々を巻き込む。それがこども環境学会。学会という世界観を受け入れるか否かはあるが、少なくともこどもについてあまりにも無知であった(母親にまかせすぎていた)大人たちのささやかな反省が現れていると言ったらいいすぎか。

僕たちは飢えはしない。だから少しの傷や痛みに耐えられないかと言えばそうでもない。でも少なくとも命を落としたくはないし、そのリスクを低減するためには大人たちは何かをしたい。その何かを数十年追い続けている人間の足跡がここにある。

これで相手は思いのまま -悪用厳禁の心理操作術-/ロベール=ヴァンサン・ジュール ~心理テクニック~

マーケティングや営業の心得のある人なら当たり前のことが書いているらしいが、例えがうまいのか、結構な厚さにもかかわらず読み込んでしまう。ローボールテクニック、フットイン・ザ・ドア。心理学というのはある意味僕たちが無意識で行っている所作が学問につながってしまうという意味で、非常に垣根が低く、逆に社会からは尊敬を得にくい?かもしれない。ちまたにあふれる心理学本を見ると思う。

僕たちは人と交わる。そこには人のこころがある。こころがあればこころは触れる。それを恋愛と呼び、友情と呼び、仕事の指示はこころの動きにより伝わらず、両親の思いはこころの動きにより逆効果。

本当は学問がもっとも近くあるべきであるはず心理学。近いようでいて僕たちの日常から遠く感じるのは気のせいか。

あの日にドライブ/荻原浩 ~困惑~

困ったな。というのが正直な感想。

よく出来ていて、手の込んだ小説だ。リズムもよく、一気に読み通せる。オチもついているし、リアリティーもある。この作家の常らしく、テーマもわかりやすい。

しかし主人公と同世代の僕としては、あまりにもどこへも飛ばない、想像にあけくれる主人公というのは、本当にいそうで、本当はいない。きっと昔の彼女が離婚して寂しそうなら、もっと下心丸見えで声をかけるだろう。社会的なリストラ戦士に引っ張られているのかもしれないが、そもそも普通は宛先なしに銀行なんてやめやしない。資格にしても会計士なんて高望みしすぎ、めったにうからないよ。

そして何より、子供がかわいいのは当たり前、つれ沿った奥さんが居心地よいのは当たり前。でも子供を捨てざるを得ない人はたくさんいるし、別れざるをえない人はやっぱりいる。作家にはその辺りを書いて欲しいと思うし読者としてはそこを求める。

まあそのような小説というのは読んでみると何だかなという小説が多く、そのような駄作に比べると本書は非常に面白かったりするのだが。

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