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2006年5月21日 (日)

ダーク/桐野夏生 ~訣別~

村野ミロ。作者のシリーズでは人気物である。そんな人気をいとも簡単に犯罪者に仕立て上げる。しかも父親を間接的に殺害する。今までの小説では心善き隣人であった友人も、簡単にミロの追跡者となる。

だれもがこの小説では壊れている。ここまで壊すのか。自らが作り上げたシリーズ物の世界をこんなに簡単に。

答えはまだなく、再生もまだない。

2006年5月20日 (土)

図書館の神様/瀬尾まいこ ~癒し~

男性の存在。高校生の教え子と、菓子職人の不倫相手と、弟。そして時々無害な同僚。主人公の教師は彼らの間で生活する。食べて寝て、本を読んで授業をして、海を見て、空を見て、話をして。

こう書いただけでは伝わらない、透明感と、せつなさが流れる時間。

傷を受けた人の心が癒されるには時間が必要。でも時間だけでは癒されない。恋と仕事と家族と、それらの中から自分が気づくこと。自分のために気づくこと。

彼女はそれに気づくことができた。「垣内くん」(教え子)の功績は大きい。僕たちにとっての「垣内くん」はいるのか。出会えたら僕たちも気づくことができるのかもしれない。気づくことができたら、癒されるかもしれない。

天国はまだ遠く/瀬尾まいこ~当たり前か普通のことか~

当り前の主人公は、当り前の人と出会う。
当り前だけど、どこにでも居そうだけど、どこにでもいないかも
しれない人達と出会う。
田村さんは普通の人だと読者である僕たちは思う。
主人公の彼女も普通の人だと僕たちは思う。
でも僕は田村さんと、彼女と出会いたい。
農家のおばあさんと、パン屋のおばさんと出会いたい。
出会いたいけど出会えない。それは小説だからと当たり前の事実に
僕らは気づく。
そんな小説だからこそ愛をしい。
心の隅にしまっておきたい、でも貴方に伝えたい、貴方と分かち合いたい。
そんな小説に出会えた事がとてもうれしい。

2006年5月13日 (土)

魂の昭和史/福田和也 ~解釈のみが存在する~

事実は存在しない。ただ解釈のみが存在する。

作者は自らの解釈での歴史観を平易な言葉で語りかける。しかし平易であることとわかりやすくあることは等しくなく、作者の解釈が「想い」としてしか伝わらない箇所もある。だからこそ「魂の」昭和史なのか。

政治のシステム、経済のシステム、文化のシステム。時代は様々なシステムが重なり合い、時には政治が、時には経済が、時には文化が時代を表現する。その蓄積が歴史となるが、後からその蓄積を紐解くのは決して簡単なことではなく、紐解き方により人の数だけ解釈が異なり、人の数だけ異なる歴史観が成立する。

だからこそ私たちは、わたしの解釈を持たねばならない。そして他人は他人の解釈を持つ。わたしとあなたの歴史は異なるのだ。

そのことに気づかせてくれるという意味で、とても大切な歴史の入門書に成り得る本である。

スロー快楽主義宣言!/辻信一 ~信じてもよいですか~

辻様

あなたを信じてよいのですか。

わたしは自分を信じたい。その自分の中にあなたの「スロー」というキーワードは根付いてしまった。僕らはもう何もいらない。ほとんどのものは手に入る。時間以外は手に入る。

手に入れたいモノはおそらくない。手に入れたい時間はたくさんある。そのことに気づいている人はかなりいる。あきらめている人がほとんどだ。皆きっとわかっている。あなたに言われなくてもわかっている。

だからこそ時間を手に入れた人達に多く出会い、ぼくらに伝えるあなたの思いはぼくらにはきつい。きつさとどう付き合うか。その判断が、ひとつの決断に変わるときが来るのか。ぼくらは問われている。

あなたを信じてみるか。

第三の時効/横山秀夫 ~上手すぎる~

あまりにも上手すぎる。

謎解き。人間。縮図。

主人公は一人ではない。組織でもない。一人一人があまりにも魅力的に描かれ、ストーリーは読み手の心をつかんで離さず、ページをめくる手の動きは止まらない。

警察小説とは何だ?と読みはじめる前は思うが、読み終えるとそこにあるのは警察という世界に生きる、生かされる男たちの生き様。

しかしやはり最大の魅力はそのミステリーとしての完成度。長すぎず短すぎない各編のラストは、一冊の本を読み終えたときに各編の数だけ唸り声をあげさせる。

「半落ち」では落ちなかった僕がこの本では落ちた。

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